本格ミステリは……犯人当ての人殺しパズルは、何故禁書とされてしまったのか? 人の命をオモチャにするいかがわしい遊技だから? それとも……
その日本は、独裁下にあった。権力は、本格ミステリを退廃文学として禁書とし、また焚書にした。権力が禁じたものは、読んではならない。ある夜憲兵隊や秘密警察の手で社会から蒸発させられ、収容所で短い生涯を終えたくないのなら……だから、アオヤマハツコら6人の女子高生が「それ」を発見してしまったのは、まさに思想犯罪のはじまりであり、そしてレジスタンスのはじまりでもあった。
著者のひとこと
猥褻物は分を弁えるべきです。本質的にいかがわしい、実社会における効用がまるでないものであると自覚すべきです。それにより社会における多数派を構成しようなど、その本旨にもとります。しかし……猥褻物にしか宿らない価値というものもあるのです。人殺しに係る犯人当てパズルまたしかり。自由。民主主義。基本的人権の尊重。法の支配。あるいは実体的正義と手続的正義……この本質的に淫らな文学ジャンルは、私達の「寛容」を支えるそうした基本的価値観を宿せるモノだと、私はそう静かに信じています。(いささかならずひねくれた宿し方ではありますが)
講談社文庫
- 発売日
- 2020.09.15